客席編出演の片桐慎和子出演
TOKYO PLAYERS COLLECTION & ライトアイプロデュース
『IN HER THIRTIES』 作・演出・構成=上野友之
http://inher30.net/
スポンサーサイト

舞台編『ヒーロー2』三日目。
久野さんの言葉を足場に、二日間で積み上げたものを、本物の舞台でさらに積み上げていきます。
と、数時間を遡り。
新しく加入したメンバーを加え、制作会議を行いました。
制作・スチールの北村泰一さん、演出助手の中村一規さん。
これまでの『階』にも参加されていました。
北村さんは、舞台ではなく物語をフィルムに収められる写真家です。
中村さんは、劇場の知識や経験が豊富で整理整頓が上手なお兄さんです。
お二人とも『階』に馴染みがあるためか、かつてない速さで話はまとまり、四人は地上へ。
ふたたび地下へ。
客席編オーディション以来の船場サザンシアターです。
当時は出演者の片桐慎和子さんと七井悠さんが、椅子を用いたエチュードをされていました。
今日は、この劇場ならではの上質な客席から、舞台編のお二人を観ていました。
どこを振り返っても黒い壁と壁。
そこへ重くのしかかる暗幕。
ここは劇場です。
生まれて一度も、日の目を見なかったヒーローは、舞台をさまよい続けます。
そして、地上から階段を下り、地下の劇場へたどり着いた俳優も。
さらに階下へ、落としてきたものを拾いに降りる。
何を落としてきたのだろうか。
何段目に落としてきたのだろうか。
途方に暮れていても、陽は落ちるばかりで。
だから闇雲に、彼らは自らの手と足で探り続けます。
三月は、これで終わりです。
四月は、また新たに。

演出助手・杉本奈月
舞台編『ヒーロー2』二日目です。
昼下がりのアップにて、出演者の諸江さんがヨガを教えてくださいました。
背骨の一つ一つを、時間をかけて地面と接させていく過程。
久野さん曰く脊椎動物であることを実感できるとのこと…そう私たちは脊椎動物だったのでした。しかし、なかなか滑らかにいきません。
その傍ら、地面に溶接されている太田さん。
対照的なお二人です。
そして作品前半の立ち稽古。
段落から文へ、文から文節へ、文節から単語へ。
言葉が流れてしまわないように、音に区切りをつけていきます。
生まれたばかりの言葉に終わりを告げているようで、最期まで見送りたくなってしまいます。
明日は会場である船場サザンシアターにて稽古です。
演出助手・杉本奈月
舞台編『ヒーロー2』初日の稽古が終わりました。
今日の舞台編チームは、作者の久野那美さん、出演者の太田宏さんと諸江翔大朗さんです。
週明けまでの三日間、稽古場にて缶詰めになります。
どうぞよろしくお願いいたします。
まずは読みから。紙面上の言葉は音となり、やがて俳優の身体により世界が象られていきます。
初めて出会って、でも二度、三度と重ねるごとにまた新たな出会いがあるようで、相手との関係を見出していく一方、物語が一枚ずつ層を成しているようでもありました。
明日明後日と、そして冬まで、まだまだ時間はあります。
一枚を選びとって透かしてみてもいいし、レイヤーのように複数枚を重ねてみても、タイル状に並べてみてもいいかもしれません。
演出助手・杉本奈月
明日から舞台編の稽古が始まります。
12月の公演まで9ヶ月ほどあります。この時期から稽古を始めるケースはあまりないのですが、出演者が東京都京都に離れて住んでいるのでとにかく出来るときに少しずつ稽古することにしたのです。
舞台編の出演者はふたり。
太田宏さんと諸江翔大朗さんです。
太田宏さんとは17年前、「パノラマビールの夜」という作品を上演した際に出演してもらったのをきっかけに知り合いました。その2年後に船の階で「海に送った灯」という作品にも出演してもらっています。なので、ご一緒するのは3回目です。缶の階の企画は、
2年前の太田宏さんのひとことから始まりました。
諸江さんは今回はじめてご一緒します。「缶コーヒーを持つ男」という、缶の階の看板のような役柄を演じてもらいます。昨年秋、チラシで募集しつつ、いろんなひとに声をかけて出演者を探していたのですが、「京都に諸江翔大朗さんという俳優がいる。新しいことに躊躇せず挑戦する人で、調和をとることに長けた俳優だ。」という噂を聞きました。今はインターネットという便利なものがあるので、さっそく検索してみました。
「頭を下げれば大丈夫」という、主に関西の演劇関係者のインタビューを集めたサイトで諸江さんの記事をみつけました。そこで彼は「ことば」について一生懸命語っていました。よく読むと、どちらかというと台詞劇よりも身体表現に興味のある役者さんのようでした。
演劇をしながらいつもいつも考えるのは「ことば」の可能性についてです。
私は劇作をするので、言葉にならないことから作品作りをすることができません。
それはある意味挑戦しがいのあることではあるのですが、小説や詩ではなく「演劇」というジャンルを選んだ以上、どこかで、「書き表すことのできないもの」に対する強いあこがれがあります。書くことではつかまえきれないもうひとつの「ことば」の可能性を知りたくて、私は戯曲を手に演劇の周りをぐるぐる回っているのではないかと思うのです。
太田宏さんは圧倒的に「文字に起こせる言葉」に関心のある俳優さんです。彼と演劇の話をすると、かならず「声」「音」「ことば」「物語」という単語が出てきます。役者の仕事は、書かれた文字を人間という媒体を通して出力することだというイメージがあるのではないかと思います。
対して諸江さんは物語からはみ出した部分の「ことば」に関心があるように思われます(私には)。
このふたりの組み合わせはとても面白いなと思ったのです。
「ヒーロー2」というこの作品には、ふたりの登場人物が登場します。
このふたりの関係はとても特殊なものです。
しばしば、おなじことを違うことばで言ったり、違うことを同じ言葉で言ったりします。
ふたりがほとんど同じ長い台詞を語るシーンもあります。
この戯曲の作者は、おなじような言葉が使われる場所や立場で全く位相の異なる内容を示し、致命的に相容れない状況を示す様を描くことで、ことばの可能性と残酷さについて考えようとしたのではないかと思います。
明日はまず、読み合わせをします。
そのあと…どうしましょう。
いろいろ考えていっても、結局は、その場で起きたことや起きなかったことが次に何をすべきか教えてくれます。
会話と同じで、次の思いがけない何かに至るための何かでなければ意味が無いような気がします。
そういうことを言ってるからいつまで経っても要領が悪いのですが。
でも、これまでの経験から、最初の読み合わせで「えええええええっ?そうなのですか?」と腰を抜かさなかったためしがなく、そこまで「ええええええっ?」な状況で準備したものが段取りよく使えるはずもなく、なんというか、稽古のための場所は道場のような場所になるのです。
でも、それが楽しいから稽古楽しいわけですし。
今はまだ誰も知らない、思いがけない「何か」に出会うための準備として、
とりあえず明日の懇親会で食べるものを作っています。
そして、ほんを読んでいます。
稽古の前の日にはもっとすべきことがあるのだろうかと毎回不安になります。
もっとそれらしいことをしようと思い立ち、この稽古場日記を書いてみています。
久野那美